呉ノ朱

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  四.  

人物紹介・作品解説へ
 

「はァ、疲れたあ」
買い物を終え、たくさんの紙袋と共に家に着くなり、ソファーに寝ころんだ古蝶の向かいに、蛍はちょこんと座る。
さっき買ったばかりのワンピースの裾がふわりとフローリングの床に広がった。
「蛍ぅ、腰、もんでくれる?」
「はい」
蛍はすみません、と小さく言ってから古蝶の上にまたぐようにして座って、腰に手をあてた。ぐっ、ぐっと、適度な重みでポイントを刺激される。
「いいわあ、上手」
蛍のマッサージは巧かった。身体からゆるゆると力が抜けていく。
それでも頭の中にある疑問は晴れなかった。
「……ねえ蛍。あんた、一体どういう子?」
「え……?」
俯せに寝ころんだままの姿勢で、蛍を見ることなく古蝶が言う。 ずっと思っていた疑問なのだ。
すると、答えに詰まったように 蛍の手の動きがぎこちなく乱れる。
「だって、男慣れもしてないし、世間ズレもしてないのに、セックスは慣れてるみたいだし。田舎の子ってみんなそうなの?」
「ええと……」
蛍は完全に言葉に詰まってしまった。手の動きが止まる。
古蝶ははっとして、身体をひねって振り向いた。
「話したくないことなら、いいのよ。ありがと。もういいわ」
「はい」
蛍は困ったように笑って、古蝶の上から身体をどかす。
不意に、ワンピース一枚になった蛍の背中が古蝶の目に飛び込んだ。
――アザがある。
しかも明らかに、自分と同種類の、故意につけられたもの。
「蛍、あんた……それ……」
「え? あ、これですか?」
思わず上半身を起きあがらせて凝視した古蝶に、蛍が振り返った。
そうして何でもない風に、笑ってみせる。
「もう痛くないので、大丈夫です」
「そうじゃなくて」
けれど何と続けていいかわからない。古蝶は一度、頭を掻いて立ち上がった。
「……お風呂、はいろうか」
「はい、用意します」
ぱたぱたと、ワンピース姿の蛍がバスルームに駆けて行った。
古蝶は一人、ソファーで頭を抱える。
家出をしてきたと言っていた。異常なほど純粋に思えるのに、その反面、処女ではないことや、ピルの服用など、セックス慣れしている身体。
一度、きちんと問い質してみなくてはならないだろう。
もし何か深い事情があるならば、自分や、自分の店までトラブルに巻き込まれる。非情なようだが、それが夜の世界での無言の掟だった。
誰も彼も、自分一人が生きるのに精一杯なのだ。
「お風呂、沸きました」
ワンピースにエプロン姿の蛍が、濡れた手を振るうようにしながらリビングへと戻ってきたので、古蝶は思索をやめてソファーから立ち上がった。
「そ。じゃあ一緒に入りましょ」
「一緒にですか!?」
さらりと言った古蝶に対して、蛍は驚いてみせる。当然かもしれない。
オカマだ、女同士だと口にしても、自分は一度蛍を抱いてしまっているのだから。
「女同士なんだから。さ、いらっしゃい」
そう言ったのは、古蝶自身に対してでもあった。蛍はおずおずと、古蝶に従う。
洗面所で古蝶はスッと服を脱いだ。背中の傷はまだ染みるだろうが、文字通り、裸の状態ならば、話しやすいこともあるに違いないだろう。
どんどん裸になっていく古蝶に、思わず蛍は背中を向けた。
「ほら、あんたも早く脱ぎなさい」
「は、はい……」
蛍は赤い顔のまま、ワンピースのストラップを肩からはずす。
スルリと服が床に落ちた。
白い下着が白い肌に眩しい。けれどその背には、無数のアザがある。
数年以上経過していると見える褐色に変わった古いものから、まだピンク色に残る新しいものまで、アザというよりは鞭や縄痕にも見えて、痛々しかった。
それを無言のまま横目で見て、古蝶はバスルームに入る。
湯船はぬるめにしてあった。バスオイルの香りが心地良い。
傷ついた背中に染みて少し痛んだが、いつも程ではない。
タオルを巻いた蛍が、恥ずかしそうに中へと入ってくる。
「何タオルなんて巻いてるのよ。ホラッ、取って!」
「きゃあ!!」
湯船の中から手を伸ばしてタオルを取ると、白い胸元にまで痛々しく残された、何かできつく拘束されていたらしい痕。比較的新しいものだ。
古蝶はその痕と蛍の顔を交互に見上げる。
「これ……どうしたの?」
「これは、その、男の人に……」
すっと古蝶が撫でる。蛍は少しびくりと身体を震わせた。
蛍の言葉に古蝶は眉を顰めた。
「男の人って……恋人じゃないのよね?」
「あの……、お母さんが再婚した人で、お母さんが亡くなって、そしたらお義父さん、ちょっとおかしくなってしまって……」
蛍は洗い場の椅子に座る。
古蝶はその言葉で、なんとなく事の次第が読みとれた。
「寒いでしょ。中、入んなさい」
蛍は一度シャワーで身体を流してから、湯船に入ってくる。
豪華を謳ったこのマンションは、バスルームも一人では十分な程広い。
「もしかして、あんたがピル飲んでるのも……」
「これは、友達に相談して、教えてもらったんです。今でもなんだか、習慣みたいになっちゃって。……何にもないはずなのに、飲んでないと怖くて」
古蝶はその言葉だけで総てを察し、事の顛末を詳しく聞き出すことは辞めた。わざわざ古傷を抉ることもない。
「その男のこと、憎んでる?」
険しいままの古蝶に、湯気でぼんやりとかすむ蛍は、一度首を傾げて、また笑った。
「痛いのは、怖かったですけど……でも、あの人も可哀想だったから」
蛍は少し俯いて、黙った。古蝶も言葉を続けることはできなかった。
蛍はこんなにも純粋で、優しい。だからこそいっそうに痛々しく思えて、愛おしくさえある。
「身体、洗いますね」
身体を隠すように洗い場に出て、スポンジにボディーソープをつける。
古蝶は無言のまま、蛍を見た。
「ほんとは、男の人ってずっと……怖かったんですけど、でも古蝶さんとは……気持ち、良かったので……びっくりしました」
腕にスポンジを滑らせながら、鈴の鳴るような声で小さく蛍が言った。
古蝶も思わず紅潮する。
「そ、そう……。オカマだからじゃないの?」
「そうなのかも……しれないですけど」
自分も、よもや今更女を抱けるとは思っていなかった。
オカマの世界にも、オコゲと呼ばれる女性達はいる。
女の客もよく遊びに来るし、男の目で見たら、蛍より余程魅惑的な女は腐るほど見てきたはずだった。
蛍が何か特別なのだろうか?
「あたしものぼせちゃうわ」
古蝶も立ち上がった。蛍が咄嗟に古蝶の股間から目を反らす。
「そんなに露骨に厭がらないでよ」
「その、慣れてなくて」
苦笑した古蝶から目を反らしたままで、蛍は真っ赤に顔を染めて、スポンジを弄ぶように揉んでいる。
「だって……してたんでしょ?」
顔を背けたままの蛍の後ろに立つ。
この洗い場では、二人が座ることはできない。
「いつも……目隠しされてたので、見なれてはないんです」
「ふうん」
慌てるように蛍が身体を流して、湯船へと戻ろうとした。
その肩を、古蝶は掴んで引き寄せる。
「待って。だったら……リハビリしよう、か」
「リハビリ、ですか……?」
戸惑いの色を瞳に揺らして、蛍が古蝶を振り返っている。
小ぶりな胸がうっすらと華奢な身体に隆起していて、その下には薄い茂み。
古蝶はその蛍の身体に思わずぞくりとして、唇を舌先で舐めた。
――試してみたい気持ちもあった。
なぜ、蛍には欲情するのか。まだ自分に男の部分が残っているのか。
この4年、男に抱かれることで快感を覚えてしまった自分のこの身体が、葛城にすっかり染め変えられてしまったこの身体が、まだ自分自身としてのアイデンティティを保っているのか、知りたかったのだ。
蛍の肩が、背中を向けたまま、古蝶の胸にあたる。
見下ろした視線の先には、小ぶりだが形の良い胸があった。
古蝶は腕を伸ばしてその胸に触れる。
「やっ……古蝶さん……っ」
「いい声」
ぞくりと、胸の奥で何かが痺れる。
片手で胸をまさぐりながら、ゆっくりともう片手で足の付け根を抱いた。
「怖かったら、やめるから」
「怖く……ないです……」
乳首を摘む。びくりと蛍の肩が震えた。
太腿の内側を撫でていた指を、そっと上へ這っていく。
「んっ……あは……っ」
「感じる?」
こくりと蛍が頷いた。古蝶の男の部分が、鎌首をもたげる。
乳首の周囲を撫で、そして親指と人差し指で摘む。
手のひらに収まりきるほどの小さなふくらみからは蛍の鼓動が伝わってきた。
「ふ、あ……ああっ」
背筋をつっと舐めた。蛍の秘所にそっと指を差し込む。決して水ではない湿りが、指にまとわりつく。
触れあった濡れた肌が、いっそう古蝶の官能をかき立てる。
「濡れてる。感じてるんだ」
「はっ……はい……ああっ」
古蝶もたまらず、蛍の腰を曲げさせると、臀部に自分自身を擦りつける。
先走りの露が、ぬらぬらと光った。
舌で背後から耳朶をくすぐる。そうして首筋へ。ボディーソープのいい香りが蛍の熱をもった肌から立ちのぼっている。
「あっ……あう……!」
指を第一関節まで差し入れた。蛍の顎がくっと上がる。
浴室の壁に蛍を凭れさせ、両手で秘所を責めた。
クリトリスに蜜を滑らせて、指で挟むようにして擦る。
「んっ!! あっあああ!」
「これが、好きなの……?」
蛍は思わず声にならずに頷いた。
古蝶の指が浅く蜜壷に入り、そしてまた抜かれる。その繰り返しに蛍の疼きは加速していった。
足ががくがくと揺れて、立っていられないほどの快楽。
蛍には自分のこの反応がわからなかった。
――どうしてだろう。あの男に触れられていた頃は、ただ恐怖と嫌悪ばかりだった。
なのに古蝶の指は、あまりにも熱く自分を溶かしてしまう。
「あぁ……あ、ああぁ……もっと……」
――もっと、して。
唇だけで蛍は懇願する。声にならない。
古蝶の熱を持ったモノが、太腿を割って割れ目を擦る。ぬるぬるとした自分の蜜が、それを濡らして滑りを良くしていた。
「あっ! あっ、ああっ!」
「こんなに濡れてたら……このまま入っちゃうかも」
はっ、はっ、と、古蝶が蛍の耳元に熱い吐息をかけた。
後ろから抱きかかえられるようにして、蜜壺の入り口、そしてクリトリスを亀頭が撫でる。
「や……あ……はいっちゃう……」
古蝶が腰をねっとりと動かすと、ひときわ熱い古蝶自身が蛍の花唇をめくりあげ、クリトリスを撫でて、ちゅぷ、と、湿った音を立てた。
「あ、あ、あぁあう……」
「もう、ぐちゃぐちゃになってるじゃない」
ふふ、と笑って古蝶が耳元に熱い息を吐きかける。
ぬるり、と亀頭が蛍の膣口をとらえた。
そのまま、蛍の奥から溢れている蜜に吸い寄せられるように襞を割って奥へと入っていく。
たまらない、突き上げる快感。
「あう! ああああんっ!!」
「ほら……入っちゃった……っ!」
じゅぷ、といやらしい音がして、古蝶のものが根元までおさまる。
あまりの強い刺激に古蝶が喘いだ。背中にぴったりと、古蝶の濡れた身体が貼り付く。
ぞくぞくと込み上げてくる快感に、蛍はもう立っていられない。
「動かしても、いい?」
「はっ……は……い」
古蝶が蛍の腰を支えた。
一度カリの部分まで抜くと、また奥まで深く差し入れる。
それだけで、頭がぼぅっと白くなるほどの快感が、ある。
「き、気持ち……いい……っ」
「凄い濡れてる、あんたのここ……」
パン、と激しく突かれる。その度に狭いバスルームにこだまするほどに、擦られる音が聞こえてくる。
「あっ! あっ……もっと、もっと……」
「もっと、何?」
古蝶は淡く笑った。普段は純朴に見える蛍だけに、こうして乱れている姿にぞくぞくとする。
本当は自分も動き出したい。激しく蛍を貫いて、蛍の中に注ぎたくてたまらない。けれど古蝶はあえて、じらすようにゆっくりと腰を動かす。
「もっと……激しく……してくださ……!」
「こう?」
ぐっと腰を突き上げた。そうして急激に、挿入を繰り返す。
バスルームに蛍の喘ぎと、繋がって立てる淫靡な音が反響している。
「あっ!! ああぁああっ!」
「こうして……欲しかったのね」
蛍の背中が大きく反る。足は、もうがくがくと震えて立っていられない。
「んっ! んっ!! あああぁ」
「すごい……蛍……っ」
古い記憶の中の、今まで抱いたどんな女よりも蛍の中は良かった。
熱いうねりがからみついて、古蝶は無心に腰を動かし続ける。
「あっ、あっ……ああ、あ」
蛍はぎゅうっと目をつむった。身体が崩れ落ちないように、寄りかかった壁に力を入れる。
古蝶は背後から両手でしっかりと蛍の腰を支えている。自分自身を深く蛍に叩きつけるたびに、蛍の白い肌がぶるぶると震えて水滴を弾いた。
「つらく、ない?」
「き、もち……いい……っ」
蛍は短く息を吐き出しながら、ようやくそれだけ言う。揺さぶられるごとに古蝶の男性自身が自分の襞を擦って、そこから押し寄せる快感が少しずつ間隔を短くして、胸に満たされるのがわかる。
閉じた瞼の奥が、白く広がっていく。絶頂感の兆候だ。
「あ、あっ、あっ、あっ……!」
「凄い、しまって……っ」
短く蛍は喘いだ。古蝶の動きに合わせて、ぐっ、ぐっ、と、自分の秘所が締まるのが蛍はわかる。
古蝶もまた、その蛍の締め付けと吸い取るような動きにより早く、腰を進めていく。
「古蝶さ……いっちゃう、いっちゃ……うっ!」
「いいよ、イって。私も……」
ただ眩暈のするような快感の渦に、一緒に飲み込まれていく。
「あ!! ああっ! はぁあんっ!!」
「イ……くっ」
びくびくと蛍の身体が震えて、古蝶を飲み込んでいる奥がきゅうと締まった。
そこから全身を突き抜けるような快感が走って、古蝶は一度深く蛍の奥に叩きつける。
「んーっ!! ああっ! あああ……!」
蛍の奥で、古蝶のモノが破裂した。ドクドクと、熱い飛沫が注がれる。
蛍は真っ白に溶けてしまった頭の奥で、その熱を感じていた。
「は、あ……」
古蝶は蛍の力を無くした華奢な身体を後ろから繋がったまま、強く抱きしめる。
胸を満たす、愛おしさがあった。蛍の中に注いだ自分の欲望が、少しずつ圧力を増して古蝶自身を押し戻そうとする。
ごぽ、と音を立てて古蝶自身が蛍から離れた。つっ、と、白濁した古蝶の放ったものが蛍の太腿を伝っていく。
「きゃっ……」
その感触に驚いたのか、蛍が小さく叫んだ。古蝶はくすりと微笑んで、蛍を抱きしめたままきちんと立たせる。
「すっかり冷えちゃったわね。……お風呂、入りましょうか」
「う、動けないんです……」
蛍の両足はがくがくと震えて、とても歩けそうにない。
古蝶は一度苦笑すると、軽々と蛍を抱き上げる。紅潮した白い肌が美しい。
蛍は古蝶の顔を見るのが恥ずかしい。こんなに感じてしまうなんて、きっと淫乱な子だと思われただろう。顔をさっと俯かせる。
「ばかね」
古蝶はそんな蛍の内心を察したように微笑んだまま、抱き上げた蛍を浴槽にゆっくりと座らせた。そうして、向かい合う格好で、自分もぬ るくなってしまった浴槽に身体を落とす。
「どうだった?……厭じゃなかった?」
蛍は首を振った。細い首が何度も左右に揺すられる。
安堵して微笑んだ古蝶のは、ふと蛍の身体が、震えていることに気づいた。
「っ……」
浴槽に満たされたお湯に、蛍の瞳から流れた涙が落ちる。ぎょっとして、古蝶は蛍を覗き込む。蛍は、泣いていた。
「やっ、やっぱり厭だったの!?」
蛍は首を振るが、嗚咽が止まらない。古蝶はおろおろと、腕を放した。
「私、ずっとお義父さんがひとりで残されて可哀想だと……思ってたんですけど、でもっ、本当は…………」
古蝶は蛍の頬に手を伸ばした。頬を包むようにして親指で涙を拭ってやる。
「本当に可哀想だったのは、私だったのかもしれないって……思って……」
「そうね……」
しゃくりあげながら、蛍は涙を流し続ける。古蝶は蛍の肩を抱き寄せた。
子供をあやすように、蛍の頭を撫でてやる。
「私……私っ……」
蛍は古蝶の胸に頭をうずめた。涙が止まらない。
古蝶は、自分にしがみつくように泣き続ける蛍を、愛おしいと思っていた。
こんなに細い身体で、どれほどのことを耐えてきたのだろう。
古蝶の胸に、この4年間が去来する。葛城に踏みにじられたその内の2年は、地獄だった。男である自分ですらそうなのだ。蛍の痛みは想像すらできない。
「蛍……」
古蝶は、後悔し始めていた。蛍を抱いてしまったのは間違いだったかもしれない。彼女の傷を、自分は広げてしまったのではないかと。
「身体がかえって冷えちゃうわ。ほら、いらっしゃい」
蛍の涙がひとしきり収まったところで立ち上がり、蛍に手を差し伸べる。
見上げた蛍の泣き顔があまりに心細そうで、古蝶は蛍の冷えてしまった肩を抱いた。

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