呉ノ朱

小説一覧 作品紹介 よくあるご質問 他サイトへのリンク 御感想はこちらへ 文字サイズ 大 中 小



 
  一. 

この小説に関連するシリーズ
人物紹介・作品解説へ
婚約する、と、馨が告げた時の会議室に集まった一同の顔は見物だった。

「何か不満でも?」
「不満どころか……なぜ栢木なんだ!?他に相応しい男はいくらでもいるだろう」
声を荒げたのは分家の叔父だ。だがそのいかにも神経質げな細面を顰めた叔父相手に、馨は悠然と微笑んでみせる。
「この私が選んだんですよ、叔父様。それにお忘れですか?栢木を私に与えたのは先代の意志。当然こうなることも予測されていた筈です。それともどこの馬の骨ともわからない、血筋だけが優秀な男を娶れと?」
栢木は馨の背後に控えながらも、思わず苦笑しそうになった。
これがわずか16の少女の言う言葉だろうか。
しかも馨の体躯や顔立ち、雰囲気は年相応とは言い難いほど幼い。到底こんな言葉を吐き出すようには見えないのだ。
言われた叔父、といえども直系ではないその男は言葉に詰まり、そして黙った。
「まあ、いいではないか。栢木はいままで良く働いてくれた。それに馨が決めたというならば……私たちが口を出せることもないだろう」
馨の父、繁が笑顔でそう言って、そして栢木を向く。
「正式な婚約、結婚は馨が18になってからだが……栢木、君はその、ほんとうに?」
繁の言わんとすることはわかる。この家に入るのか、大丈夫か、ということだ。繁もいわば栢木と同じ立場だった。先代の当主である澪子に望まれて結婚したが、苦労は並大抵のことではなかっただろう。
だが栢木は、静かに頷き、そして一礼した。
「馨様が望まれますれば、そのように」
苦労など、何があるだろう。この家に初めて来てから、自分の総ては馨だけのために在ったのだ。今後もそれは変わりがない。
馨は一度肩を竦めて、そして椅子から立ち上がった。
「ではそのように。婚約したからといって、栢木を特別扱いは致しません。今までと変わりなく執事として働いてもらいますから。結婚後も同じです。よろしいですね」
カツカツと、床に馨のヒールの音が響く。栢木はその音に導かれながら、部屋を後にした。

栢木が一礼して廊下に出ると、馨は一度大きく伸びをした。
「――間抜け顔が雁首揃えて、馬鹿馬鹿しいったら」
「そのようなことを仰りますな」
栢木が窘めると、馨は振り返ってきっと睨み付ける。
「あ、の、ね。お前が馬鹿にされたのよ?……他に相応しい男はいくらでもいる、ですって。血に高貴さを求めたって、肝心のその巡りが悪い無能な男なんてごめんだわ」
栢木は思わず苦笑した。馨の綺麗な柳眉が顰められる。
「なにが可笑しいの」
「いいえ。私を庇ってくださったのが、嬉しくて」
尚も笑い続ける栢木に、馨はさっと頬を紅潮させると一瞥して、さっさと先を行ってしまった。
栢木はその背を見つめる。猫のようなふわふわとした髪が揺れる。ずいぶんと伸びた。背も、髪も。あの髪がまだ肩にもつかなかった頃から、栢木はずっと馨の背中を見続けてきたのだ。
それなのに、いまやその馨の婚約者だという。
解雇を覚悟の上で、劣情のままに馨を抱いたことが、こんな事態を引き起こすとは思ってもみなかった。
――婚約しようと、結婚しようと、自分と馨は何も変わらない。
自分にとって馨は、他のどんなものを犠牲にしても護らなければならない唯一の、愛しいひと。
白い馨の部屋のドアの向こうから、馨が自分を呼ぶ声がする。
栢木は、少し歩みを早めた。


けれどその日、本当は栢木は、馨の態度を諫めなければならなかったのだ。
そのことを後悔するのは、それから数日経ってからのことだったのだけれど。


「栢木さん、お嬢様が!」
屋敷に、いつもとは違う喧噪が訪れた。
取引先の銀行に寄った馨が、その帰宅途中に消えたという報せ。
馨の足として働いている初老の運転手は、その銀行の裏道で全治二週間ほどの怪我で発見され、そして、車もまた途中にある建設途中のビルの端で見つかった。
馨だけが、唐突に姿を消した。
「……落ち着いてください。警察には連絡しないように。この話を聞いたのはあなただけですか?」
この年若いメイドが第一報を知ることとなったのは、単に彼女がその運転手の娘であるからだ。彼女は、青ざめたまま必死に頷いた。
実質この家の主人である馨の執事の栢木にとっては、この家で働く他の者は総て部下にあたる。統括する自分がまず、落ち着かなくてはならないと、栢木は一度呼吸をした。
「では、決して誰にも話さないこと。普段通りにしていなさい」
「は……はい……」
メイドは狼狽していたが、必死で震える手を握った。
栢木はそれをちらと見て、執事室へと向かう。
今日に限って、だった。今日に限って、栢木は馨に付き添わなかった。その隙を狙われた。これは栢木自身の過失でもある。
けれど今はそんなことを悔やんでいる時間はない。
指紋を照合して、執事室のドアを開ける。馨でさえも、この部屋に立ち入ったことはない。
そこには、パソコンの端末と何台かの電話や、盗聴器。執事室という言葉のイメージとは到底かけ離れた光景があった。
パソコンを立ち上げ、そして開いた画面。そこに、転々と移動する赤い印が出た。――GPSだ。
こういう事態は、勿論想定していないわけがない。実際、まだ馨が子供だった頃にも誘拐未遂が何度となく、あった。そのため馨には、衛星による探知機がつけられている。そして、盗聴器も、だ。
栢木は、黒い小さな箱を取る。そこから伸びている、片耳用のイヤフォンを装着した。 ザッ、というノイズに混じって、馨の静かな声が聞こえる。
生きている。
栢木は一度、息を吐き出した。あまりの緊張に、呼吸を忘れていたのだと気づいた。



「――さすが三宮の、というところでしょうか」
後部座席に座ったまま、逃げだそうともしない馨に向かって、運転席の男がバックミラー越しに笑った。
馨の隣、後部座席に一人。そして運転席に、一人。
黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いサングラス。まるでいかにも殺し屋かスパイか、誘拐犯ですと言っているような個性のない格好に、馨は苦笑する。
「私、かよわいのよ。無駄だと解っていることはしないわ」
苦笑してみせても、スカートの上で握りしめた拳は小刻みに震えていた。手首と足首には、手錠がつけられている。怖くないはずがない。
銀行を出て、いつものように後部座席に座った。運転手がドアを閉め、そして運転席へと入ろうとした時、この男達は運転手を襲った。そしてしばらく車で走った後、別 の場所に待機させていたこの車に乗り換えて今に至る。
単なる強盗や誘拐犯にしては、手口が鮮やか過ぎた。
馨は隣の窓を見た。スモークの施された黒い窓ガラスに、自分の横顔が映っている。耳には銀色のピアス。その中には、恐らく現存する中で最も性能の良い、超小型の盗聴器と探知機が埋め込まれている。今頃、自分が何処にいるかを栢木が調べているはずだ。きっと、そうだ。
「……何が目的?」
「さて……そんなことを話しても良いものでしょうかねえ」
馨の隣にいる岩のような男は一言も声を発しない。運転席の男はそれに反して饒舌だった。
「依頼人が、いるんでしょう。貴男達は慣れすぎてる。いくらで、飼われたの」
「倍いただけたとしても、残念ながらお教えできないですね」
交渉は無駄だということだ。金で動いているわけではない、だとすれば、彼ら自身の意志ということだろうか?
馨は頭の中を必死に落ち着かせて、考えを巡らせる。心当たりは少なくない。
「ご婚約おめでとうございます」
にやりと、厭な笑みを男は浮かべた。馨はその言葉に驚愕する。
「何故……それを」
目を見開いた馨に、男は一度軽く首を傾げて、尚も笑み続けた。
それきり、しばらく男は黙る。そして隣にした、運転席の男よりもずっと屈強な身体をした無言のもう一人が、馨の目に、目隠しをする。
身体をよじってそれを避けようとしても、無駄だった。
視界が奪われ、馨はよりいっそう恐怖が強くなる。
「そろそろ……怖くなってきたのではないですか?」
運転席から、また声がした。
馨は一度きっと、唇を噛みしめた。


車が止まり、強い力で後部座席から引きずり降ろされる。
靴の下にコンクリートの感触。馨は身体を震わせながら、懸命に状況を判断しようとした。唯一自由になっている、聴覚を澄ます。
シュッというドアの音。自動ドアだ。人の声は聞こえない、静かな場所。
車は自分を乗せて、30分ほど走っていた。視界が自由になっていた間に見た光景は、見慣れた街のビル。目隠しをされてから、2度右折して15分。
なんとなく、場所の検討がつく。ビル街があるのだ。それも、治外法権の。
と、身体が抱き上げられた。それは栢木が自分をそうする時とは違い、自分を拘束している大きな腕に、ぞっとするほどの強い恐怖を感じさせる。
エレベーターの感覚。ボタンの音。マンションか、ビルの一室に連れて行かれようとしている。
自分を抱いている男が立ち止まった。ドアが開く音。そうして、絨毯の上に降ろされた。
「着きましたよ」
耳元で、男が囁いた。自分を抱いているあの屈強なタイプではなく、運転席にいた男の声。
「ここは、何処?」
男が隣に立っている。馨は声のする方を向いた。
「そうですね……ヒントを差し上げましょうか。そこで盗聴している、貴女の婚約者さんにも」
「!」
男は嗤いながら馨のピアスを指さした。それは馨からは見えなかったが、馨は顔を跳ね上げる。
何もかも、解られている。単なる誘拐犯ならば、こんなことは有り得ない。
「――あなたたちは、何者?ただの飼い犬じゃないでしょう」
男は嗤い続けて、愉しそうに、馨を眺める。
そのねっとりと絡みつくような視線に怯み、思わず一歩下がると、背後の大男にぶつかる。男の手が、馨のピアスに伸びた。闇の中で触れられ、息がかかる。ぞくりという厭な温度。
「お姫様は悪い魔王に捉えられてしまいました。さあ王子様、どうする?」
馨にではなく、栢木に向かってそう言った後男は嗤った。くっくっという笑い声が耳に触る。男の舌が、突然馨の耳に差し込まれた。唾液の音。
「い、いやっ!!」
べろりと舐められて、悪寒が走る。身体を反らし睨みつけた馨に、男はさも愉快だと言いたいように大声で嗤った。
その笑い声が恐ろしくて、馨は身体を強ばらせた。どんなに虚勢を張っても、どんなに知能や経営能力があっても、只の16の無力な少女でしかないのだと思い知らされているような屈辱。
「火に燃えなくて水に沈まないもの。さて、何でしょう」
素早くそう言って、男は馨の耳朶に指先を触れさせた。ピアスがすっと抜かれる。同時に、目隠しがさっと外される。
「栢木っ!」
「――Auf Wiedersehen」
叫んだ声が早かったか、男の手の中で、それが砕かれるのが早かったか。
男は握りつぶしたそれを床に落とすと、革靴で踏んだ。
粉々になったそのピアスを模した唯一の馨と栢木の連絡手段は、まるでこれからの馨の姿のようで、ゆっくりともう一度、馨は恐怖した。




「……くそっ!」
栢木は乱暴にイヤフォンを叩きつけた。そしてパソコンの画面を見る。GPS、馨の現在地を示す赤い点は、チカチカと止まっていた。
男が馨をねぶった厭な音が耳に残っている。
口振りや手口からして、誰かに雇われているとは思えない。
GPSを拡大したが、位置情報は、巨大なマンションで止まっていた。男は何もかもよく知り尽くしている。GPSが馨の捉えられた場所を詳細に特定するまでのタイムラグの間に、壊したのだ。
こんなことならば、馨がどんなに拒んでも体内に埋め込む型のGPS探査機をつけておくべきだった、と栢木は悔やむ。
大人になり、馨自身にもある程度の自分の身を護る術は教えてある。ましてや今まで常に自分が片時も離れることはなかった。それが、今回に限って。
栢木は一度ぐしゃぐしゃと頭を掻いた。冷静にならなくてはいけない。
悔やんだところで、何かが解決するわけではないのだ。まず何より先に、馨の救出を考えなければならない。
「火に燃えなくて、水に沈まないもの……」
男が残した唯一のヒント。なぞなぞのようなその言葉を、栢木は反芻する。
窓の外は、もう暗くなり始めていた。




明るくなった馨の視界の前には、豪華な部屋があった。
ヨーロッパ・バロック調のインテリア。だがそこが単なるホテルではないという証拠に、窓には鉄格子がはめられ、中世の拷問器具に似た金属の器具がところどころに置かれている。
男はふっ、と、笑顔を辞めた。そして片眉だけぐにゃりと上げる。
「大丈夫、殺しはしませんよ。貴女には、貴女が無能と罵る人間たちよりも無能になっていただく、ただそれだけです」
男はゆっくりとした仕草で、馨の隣を通り抜けると、ソファーに腰掛けた。
体躯は栢木とよく似ている。明るく脱色した短髪と、サングラス。
足を組んで、そして舐めるように馨を見た後、馨の背後にいた男に顎で指示した。男が部屋から出ていく。外から、鍵をかけられる音。
「さあこれで、ようやくふたりきりになれた」
サングラスで顔がよくわからない。けれど声は、どこかしら聞き覚えがあるような気がした。
「どうぞ、お座りになってください?」
男は自分の前にあるソファーを指したが、馨は動かなかった。
諦めたように首を振って、そして立ち上がる。手には何か機械のようなものを持っていた。
「ああ、只の検査です。他に盗聴器や探知機のようなものがつけられていては、とね」
その黒い機械で、馨の身体の周囲で何度も往復する。馨はただ立っていた。足首も、手首も手錠で固定され、立っていることしかできないのだ。
頭の先から行って、つま先まで達したところで、男はああ、と言った。
「これでは座るものも座れませんでしたね」
そうして抱き上げられる。
「や、やめて!」
必死に肘で男を叩いても、男は露ほどもそれを気にはしなかった。
身体がベッドに降ろされる。馨は叫びだしてしまいそうだった。
「……このまま犯されるのではないかと、怖いのでしょうね」
にい、と、男が嗤う。男の目的が解らない。馨は必死に、男を見上げ睨む。
手首が持ち上げられて頭の上に行く。そしてベッドのヘッド部分から伸びていた鎖にそれが繋がれた。
「ここはね、とあるSMクラブの一室です」
SMクラブ。知識だけでしかないが、SMという言葉になんとなく、どのようなことが行われるかは想像ができる。
馨は砕けそうになる心を必死に押さえ込んだ。
手首が固定されて、そして足が開かれる。
「私の身体に、用があるの?」
「いいえ、それだけではありません」
馨は嗤った。男を侮蔑するために。けれど手首は震えている。
「お金でもない、私の身体でも命でもない、何が欲しいの?」
「さあ……。それはこれからゆっくりと、教えて差し上げましょう」
男が部屋の隅に置いてあった、点滴台に似た、金属製の装置のようなものをガラガラと馨の方へと持ってきた。手の中にもうひとつ別 に何かを持っている。
「さて。少し、失礼します」
シャキ、と、音が聞こえる。ハサミの音だ。
男は横に立ち、ワンピースの裾を引っ張った。動けば身体まで傷つけられる、と、身体が強ばる。シャキシャキと、切れ味の良い音を立てて、ワンピースが切られて行く。その動きは事務的で迷いがない。
金属が、腹部に触れた。その冷たさに思わず身体が跳ねる。
「痛っ」
ちくりとした痛み。男の手が止まり、そしてハサミが抜かれた。
「動くから、このようなことになるのですよ」
男の顔が腹部に近づいてくる。そしてぬるりとした生暖かい感触があった。
――傷口を、舐められている。
男の舌に、自分の血が絡んで赤い。男はそれを馨に見せつけるように、舌を出して嗤った。馨は泣き出してしまいたかった。この男は異常だ。これからされることは、こんなものの比ではない。
「動かないでください。怪我をしたくなければ」
再び男がハサミを取り、下着を摘まれた。さっきまでとは、比にならない恐怖だ。あんなところを傷つけられたら、という全身を突き抜けるほどの恐怖。
ゆっくりと、慎重な動きで丁度中央の部分が切り取られた。
羞恥に肌がカッと熱くなる。悔しい。どうしてこんな見も知らない男に、自分のその部分を見られなければならないのか。
ハサミは静かに、その部分から上へと切り続けられる。ゴムの部分を残して、サイドテーブルにハサミが置かれた。そして次に伸びてきたのは、指。
「や、やめなさい!」
「怯えていますね?」
男は嗤っていた。そうして指が、今切り取った下着を左右に開く。自分の秘所が露わになって、馨は小さく叫んだ。
白い下着がふたつに割られて、その間から茂みが除いている。
「まだ、何もしませんよ」
男は、馨の隣、丁度腰のあたりに持ってきた点滴のパックのようなものがつけられたスチールの棒を伸ばし、パックが馨の秘所の真上に来るように調節する。
「な、何、それ」
男は答えない。ネジを巻いてそれを固定すると、さっきまで自分の視界を奪っていた黒い布をサイドテーブルから取った。
「厭っ!」
馨は必死に身体を動かした。けれどどんなに抵抗しても、両手両足をベッドに繋がれ、びくりとも動かない。
視界が奪われる。それはよりいっそうの恐怖心を馨に植え付けた。
と、突然、冷たいものが、露わになった馨の秘所に落ちてきた。水だ。
冷たい、と、叫ぼうとしたが、その液体は体温と同じ程度の温度で冷たくはなかった。これは何だろう。
「……昔の拷問の方法を知っていますか?」
男が隣で静かな声を出した。拷問。馨は顔を歪める。こんな恐怖の中に置かれるくらいなら、いっそ犯されたほうがずっと良いとさえ思える。
「眉間にね、定期的に一滴ずつ、水を落とし続けるんです」
男の言葉が終わる頃に、また、雫が馨の肌に跳ねる。
男の指が馨の茂みに触れた。茂みを分け、そしてその中に隠れていた蕾を露出させる。
「や、やあっ!」
クリップのようなものが、花弁をつまんだ。たいした痛みはない。が、さっき下着をそうされたように左右に開かれる。
今自分は一体どんな格好をしているのだろう。馨にはもう、想像することもできない。
「きれいだ……」
感嘆したように呟いた男の声に続いて、ビッ、という音。ガムテープのような、何かが広がる音。
それが馨の肌につけられた。そして太腿に巻き付けられる。
「拷問……する気なの」
「いいえ」
軽い粘着力のある、そのテープは馨の太腿から膝まで、しっかりとベッドに固定された。もう身体を動かしても、腰から下は微動だにしない。
動かなくなってしまった下半身、さっき男が触れた蕾に、落ちてきた水滴が的確に当たる。馨は身体を跳ねさせた。
「どうです?気持ちが、いいでしょう。これは只の水ではない。どういう効能かは……いずれ解ります」
男の声が遠くなっていく。暗闇の中にひとり取り残されているような錯覚は、男に触れられていた時よりもずっと、馨を震えさせた。
次頁へ
  このページのトップへ
小説一覧へ
   
     
サイトマップ サイト概要 お問い合わせ  
Copyright(c)2004 - Kurenoaka. All Rights Reserved.