呉ノ朱

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「次期生徒会長選について、僕からは以上です」
定例朝会議の円卓の生徒会会議室で、中央に座った白倉は今までの彼と何も変わりがなかった。
生徒会顧問として同席しないわけにはいかず、壁に寄りかかりながら会議の様子を見ていた一乃は、昨夜の徹夜も手伝って、うつらうつらと居眠りをしてしまっていた。
「藤篠先生」
呼ばれて気づけば、いつしか会議は終了していて、目の前には白倉が立っている。
一乃は全身の毛が逆立つ程に驚いて、慌てて眼鏡を直すと会議室を見渡した。もう誰一人、他の生徒の姿はなかった。
「お疲れのようですね。大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
伺うようにして見る白倉の表情も声も、まるで昨日の放課後の彼とは別人に紳士的で、一乃はまさかいま、この時まで夢を見ていたのではないかという錯覚に襲われた。
白倉は一乃に書類を手渡す。
「これが生徒会選挙の概要です。念のため、承認をお願いします」
白倉の態度はさらりとしたものだった。
数枚のプリント用紙を渡して一礼すると、さっさと会議室を出ていってしまう。
その後ろ姿を見やりながら、一乃は渡された書類を見た。
ワープロ文字で打たれたそれは昨日のあの写真のようなものではなく真面目な文章が綴られていて、安堵した反面 、白倉のことがわからなくなる。
「承認など必要がないだろうに……」
生徒会長室の机の引き出しには、理事長印までもが入っていることを一乃は知っていた。
パラパラと流し読みするように何枚かめくって終えようとした時、ふと手が止まる。
「白倉!」
ノックすることも忘れて、会長室へと駆け込んだ一乃に、会長席に座った白倉が顔を上げて微笑んだ。
「いかがいたしました?藤篠先生らしくもない」
「どうした、だと?」
一乃は思い切り腕を振り上げて、白倉に叩きつけるように書類を投げた。
はらはらと舞う数枚のそれは確かに生徒会選に関するものだったが、最後の一枚が、一乃の怒りを再び煽る。
「これは何だ!」
白倉がそれを手に取り、じっくりと眺めた。
そこには、昨日の一乃と白倉の情事がやはりキャプチャーされて映っていたが、相手は白倉では、なかった。――行幸なのだ。
おそらくパソコンを使ってコラージュしたらしいそれを、白倉ははらりと机の上に落とす。
「これがどうかしましたか?」
「とぼけるな!どういうつもりだと訊いている」
白倉の表情が、いつもの会長としてのそれから、昨日一乃だけに見せた冷徹なものに緩やかに変化する。
一乃はぞくりとした。
「幼馴染み、ですか。仲が良くていらっしゃいますね。それとも彼では力不足でしょうか」
計略だ、と一乃は悟った。
昨日の自分との情事を、一乃を辱めるだけでは脅しにはならないと理解したのだろう。行幸を絡ませることで、彼は一乃を縛りつけようとしている。そして、それは確かに正解だった。
会長選を控えた行幸のこんな写真が流れれば、例え冤罪でもイメージは下がる。
ぎり、と奥歯を噛みしめる音がやけに響く。
「例えば、藤篠くんに……」
「!」
何かに思い至ったように、白倉が宙に視線を向ける。
十巴のことを言っているのだと瞬時に悟って、一乃は机に乗り上げるようにして白倉の襟首を掴んだ。
「妹たちにまで手を出したら、殺す」
「穏やかではないですね。僕は、藤篠くんにあなたとの仲をとりもってもらえないかとお願いしようと思っただけなのですが」
白倉は動じることはなかった。いつもと何も変わらない笑顔に気を削がれて、一乃は白倉の襟を掴んでいた拳を降ろす。
「私には……お前がわからない」
押し殺した声に、白倉の眉が上がった。
「私を……好きだと、言ったかと思えば、こんなことをして……理解に苦しむ」
白倉を見ることなく言って、両手で腕を抱えた一乃に、白倉はすっと静かな様で会長席から立ち上がった。
「理解していただかなくて、結構ですよ」
机を回って、一乃のところへと来る。蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。足が竦んで一乃は動けなかった。
「こういう人間もいるのだと、ただ認識してください」
白倉が一乃の前に立ち、そっと手のひらを頬に添える。触れられて、一乃は身体をびくりと振るわせた。
叩き落としてしまえばいいものを、指一本すら動かすことができない。
「愛するが故に、あなたを貶めたいという偏執的な愛情を持つ人間も、いるのだと」
「……っ!!」
頬から首筋へと流れた白倉の手が、くっと頸にかかって力がこもる。動脈を強く掴まれ、一乃は喘いだ。
「僕は先生が僕にしか見せない姿を見たいのです。憤怒や苦痛、そして痴態、あなた自身でさえ知らない表情が、見たい」
一乃よりも少し背の高い白倉は顔を少し屈めて、一乃の首筋へと唇をあてる。そしてそれを吸い付けるようにして、少し、歯を立てた。
「総てが……欲しいんです」
白倉の唇が離れた後のそこには、ほんのりと赤い痕が残された。
一乃の頸から手を離した白倉は毒気のない笑みでにっこりと笑う。
一乃は白倉の唇が触れた場所に指をあてながら、少し咳き込んで、呆然と彼を見た。
「どうして、私なんだ」
どうしてもわからなかった。
誰からも慕われ、敬愛され、一声かければ拒む女子などいないであろうこの完璧の男が、どうして狂気のように自分を求めるのか。
「他にいくらでもいるだろう!?私よりずっと優れている女も、綺麗な女もいくらでも!」
「いいえ、僕にはあなただ」
叫ぶように言った一乃に、きっぱりと、白倉は言った。
うっとりと、一乃の総てに陶酔しているかのような表情で。
「自意識を押し殺しながらも毅然と美しく、倫理を人道を失うことができない、先生だからこそ、惹かれるんですよ」
右腕を上げて、指で一乃の鎖骨のすぐ下にトン、と触れた。
「あなたは美しい」
言われた言葉は真剣な声で、一乃は瞬間目を見開く。
鎖骨の下に突き立てられるように触れていた指が滑り上がって顎を掴まれる。見据えられて動けない。
「茶化すな」
そんな言葉を、言われたことなどなかった。誰からも。誰からも。
つんと鼻の奥が痛んだ。それを一乃は白倉から目だけを逸らすことで紛らわせた。
「僕の言葉はそんなにも信用できませんか」
溜息を混ぜて短く言うと、白倉は一乃の逸らした視線の先から覗き込むようにして、顎に触れたままの指を離す。
「……何度でも言います」
一乃より少し背の高い白倉から覗き込まれたままで、抱きすくめられる。
「愛している」
逸らしていたはずの視線を絡め取られ、唇は淡く微笑みながらも真剣な瞳が告げる、愛の言葉。
それは本来ならば一乃の胸を喜びに震わせるはずではなかったか。
一乃は白倉の腕の中、喜びではなく怯えに震えていた。
背中に回された白倉の手が離れて、一乃の顎をくっと上へ向かせた。
「服を脱いでください、先生」
「な、にを……」
白倉が何を言っているのか、一乃にはわからなかった。
フレームレスの眼鏡の向こうの白倉は、穏やかに微笑んでいる。
「聞こえませんでしたか?服を脱げ、と言ったんです」
いつもの優しい生徒会長の顔をして、白倉の声は厳しい。
これは命令だ。そして脅迫でもある。そう一乃は理解した。
昨日の盗撮画像に続き、今日はわざわざ行幸の合成写真まで用意した彼だ。これ以上抗えば、恐らく妹たちは無事で済まない。
自分だけであればどうにでもなれた。だが、十巴は彼の腹心として彼を崇拝する立場にある。守りきることはできない。
「くっ……」
一乃は悔しさに唇を噛んで、ベージュのシャツを脱いだ。サイズの合わない窮屈なブラジャーと、それに押し込まれた胸が露わになる。
「きれいだ……」
白倉はうっとりしたように一乃の胸元を見て言った。
そして白い肌についている赤い擦り傷を指でなぞった。昨日バスルームで擦った後だった。
指が、たわわな一乃の胸に柔らかく沈む。
「赤くなってしまっていますね。そんなに僕に触れられたことは屈辱でしたか?」
ちろりと蛇の瞳が一乃をのぞき見た。一乃は羞恥に目を逸らす。
「さ、続けてください」
にっこりとした笑顔だった。子供のような笑顔。それに見つめられながら、一枚一枚服を剥ぎ取ってゆく。
こんな羞恥は受けたことがなかった。
ジッパーを降ろし、パンツを脱いだ。パンティストッキングとショーツ、ブラジャー姿になっても、白倉からの許しの声は聞こえない。
背中に手を回し、ブラジャーのホックに指をかける。
「早くなさらないと、ホームルームが始まってしまいます」
少し寄せて、外した。潰されていたバストが弾けるように零れて揺れる。
頬が熱い。風邪をひいた時のように目が潤んでくるのがわかる。
それでも白倉の許しは得られず、許しを請うことも一乃にはできなかった。請うてしまえば、心までもが屈してしまう。
「あれから……僕の指を思い出して、一人でされたんですか?」
「黙れ」
パンティストッキングにかけた手が僅かに躊躇した。
動揺を悟られたくなくて、そのままパンティごと引き降ろした。
つま先から抜き取ると、白い澱が下着に付いているのがわかった。隠すようにして投げ捨てた。
「僕はしましたよ、先生」
「黙れと言っている!」
ヒールだけを残しすっかり裸になってから、一乃は拳を握りしめて怒鳴る。
「――間違えないでください。命令しているのは、僕です」
凄味のある声で、だがにこにことした白倉の無邪気な笑顔が、心底憎らしかった。
「さあ、机に手をついて……足を広げなさい?」
白倉は腕組みをし、顎で会長机を示す。
このまま白倉を殴り倒して、この部屋を出ていくという選択肢もあった。
だがこの学園の理事は父親だ。一乃がこの学園で教師をしているのも彼の意向であり……そして白倉は、現理事長の孫。
妹たちはまだあと数年、この学園に通わなければならない。
結局どこまでも、自分は矮小な存在なのだと思い知らされる。
男に生まれられず少女のままでいることもできず、女でありながら美しくもなく、そして、教師でありながら八歳も下のこの生徒に何一つ敵わない。
一乃は怒りと苛立ちを込めて、会長机に両方の手のひらを叩きつけた。
前傾になった身体で足を開くと、尻を突き出し高く掲げたような形になり、向こう側にいる白倉からは秘所が丸見えになっているだろう。
「ここも赤い」
白倉の靴音の後、ちろりとぬめった感触が秘所を撫でた。
覚えがあった。昨日、失禁した後のそこを拭っていった白倉の舌の感触だ。
「ひっ……あ……」
舌が一乃の秘所を舐っている。汚辱感は容易く快楽に殺された。
尖らせた舌の先端で蕾を軽くつつかれたかと思うと、穴の周囲からのろ、と侵入してくる。
「あ、ぁっ……!!」
舌で舐られながら、白倉の唾液か何かで濡れた中指がゆっくりと、昨日とは違う場所に挿入された。――アナルだ。
ぐ、ぐ、と押し入ってくる圧迫感に苦痛を感じる前に、その肉壁に、チクリという痛みが走る。爪で引っかかれたような痛み。
「そ、んなところ……っ!」
「痛かったですか?……ですが次はより痛いでしょうね」
口元を一乃の秘所から離して、白倉は感情の籠もらない気遣いを見せた。僅かに差し込まれた指が菊門から抜かれてゆく。
「いまからあなたを犯します」
聞こえてきたのは、カチカチという金属音。それが白倉がベルトを降ろす音だとわかるまで、一乃は数秒を要した。
「や、めろ!」
慌てて身体を起こそうとしたその背中を、ダン、と上からの強い力で机に押し戻される。あの細身の身体の何処にこんな力が、と思うほどの圧力。
突き出した尻に、白倉の指と、熱いものがあてられた。
「本当はずっと、待ち望んでいたのではないですか」
「違……やめ、ろ……」
触れたことのない感触のものが、冷えた尻たぶにあたっている。
それは何度か上下に襞を擦って、ぬめっていた。
一乃の肌が貫かれる恐怖で泡立つ。けれど本当に恐怖だけだろうか、と、一乃は思った。
白倉の言葉の通り、こんな風に男に犯されることを思ってきたのではなかったか、と。
緊張に思わず太腿を閉じる。触れあった肌は、白倉の唾液か自分の愛液か、濡れていた。
「動かないでください」
「い、やぁ、ああっ!!」
ぐっと尻下、閉じた太腿の隙間に熱いものが押しつけられて、一乃は絶叫した。――だが、衝撃はなかった。
白倉の熱を帯びたそれは、ぬるりと一乃の蜜壷を滑って襞を割り、太腿に挟まるような形で押し込まれただけだった。
「――冗談ですよ」
ふ、ふふ、と笑い声は次第に大きくなっていき、いかにも愉快そうに白倉は笑った。
「く……あはっ、はははは!」
一乃は首をひねって、白倉の初めての破顔の笑い声を聞いた。
太腿の間には、まだ熱く固いものが挟まれている。止まらない笑い声に身体を震わせる白倉が、一乃の肩口を掴んで後ろにぐっと反らせた。
白倉の腰が律動する。そのことで、挟まれたものが一乃の襞を、クリトリスを擦ってゆく。
「くっ……くく」
「ぁ!あっ、あ……!」
白倉は可笑しそうにまだ笑い声を漏らしながら、一乃の胸上のあたりを抱きかかえるようにして、後ろから突き上げた。
挿入されていないのに、ぬるぬるとした愛液は一乃の秘壷を溢れ、太腿を伝って白倉の肉棒を滑らかに動かしていく。
それが与える快感は、昨日の指とは比較にならなかった。
「そんな声が出せるのではないですか……」
「んっ、あ、ぁ、ひ……あ!」
揺さぶられる身体から、嬌声が漏れていく。
想像でしかなかった男のモノは、こんなに熱く、そして固いものかと一乃は思った。
そして、それは生徒のモノなのだと。
挿入されていない。それなのに、犯されている。
白倉の腰の動きが加速して、回された手が強く一乃の乳房を掴んだ。
「そろそろ、出しますね」
「え!?やっ……!」
明るい笑い声のままで、親指と人差し指が快感に勃った乳首の先端を摘んだ。
擦られるたびにひくひくと襞が蠢いているのが自分でもわかる。
ぐっと一度、白倉の腰が深く太腿の間に押しつけられ……そうして、膨張した。
「な、……っ」
太腿に挟まったそれが、二度、三度膨らんで何かを放出したのが感触でわかる。
白く濁った精液が、会長机の側部にかかって垂れた。
ようやく白倉の身体が一乃から離れ、一乃はぐったりと俯せに机に倒れ込む。だがその後ろ姿、ひとつにまとめた長い髪を、白倉がぐい、と掴んで後ろに引く。
「痛っ!」
髪を引かれる痛みに歪めて、身体を無理矢理に起こすと、白倉の手から逃げるようにして身体を彼へと向けた。
視線を落とせば、太腿を半濁した白倉の体液が伝っている。
嫌悪とぞくぞくという高揚感、その両方が一乃の腹のあたりから突き上げてくるのがわかった。
「も、もういいだろう?」
「いいえ」
終わったはずだ、と白倉を見やるが、白倉はにっこりした笑顔で首を振った。ブレザーとシャツは彼には考えられない程にだらしなく裾をのぞかせ、そしてその下の境目、ジッパーの降ろされた股間からは、いま一乃の身体に精液をかけたばかりの赤黒いそれがある。
「さ、舐めて、奇麗にしてください」
「!?」
一乃は向き合ったまま、固まった。
経験はなくとも、どういうことかは知っている。
ビデオ、雑誌、インターネット。一乃のような女であってもいまはいくらでもそういう情報は手に入る。
何より、想像したことがなかったわけでもなかった。男のものをしゃぶる自分の姿を。
「できませんか?」
快活な声に、一乃は膝を折った。吸い寄せられるようにして、手を伸ばす。
初めて触れる、男の性器は、想像していたよりも柔らかく、けれど中心に芯が通っているような奇妙な感触だった。
怖れるように口を近づけていく。
あらがえないのは、白倉の言葉にだろうか。それとも自分自身の欲求にだろうか。
「ん……ぅっ」
唇で先端を軽く挟んだ。指で触れた感触と同じように、不思議な触感のそれを、そっと舌と共に包む。
口の中にむっとした青臭さが広がって、オスの臭いだ、と一乃は思う。それは吐き気を誘うような味だったが、一乃は耐えた。
「いきなりくわえてくださるとは思いませんでした」
くすりと微笑って白倉の手が一乃の髪に載せられた。
強く押しつけられるかと思えば、白倉は優しく髪を撫でた。まるで恋人を愛おしむように、優しく。
「そう、その筋のあたりを……上手ですね、先生」
白倉の言葉に従って、ちろちろと舌でくびれた皮のあたりをくすぐる。口の中で、白倉の陰茎が膨張してくるのが感覚としてわかる。
もう屈辱だけではなかった。
口に含んでいるのはさっきまで自分を翻弄したものであるのに、それに舌を這わすことで明らかに、一乃は興奮を覚えている。
「また……大きくなってしまいました」
くい、と軽く頭を押されて、口腔内のそれが抜かれた。
唾液でてらてらと光るそれはなまめかしく、嫌悪感は失われている。彫像のようだと、一乃は性感にぼやけた頭で思った。
「どうしましょうか?先生」
跪いたままで見上げる白倉は、さも授業でわからない箇所を訊く時のような表情で、汗ひとつ流してはいない。
一乃は答えられなかった。
白倉はさっきの行為で達したが、一乃は達してはいない。
昨日の、失禁までした絶頂感が忘れられなかった。
だが、自分から一線を超えることを望むなど、あってはならない。ましてや自分は白倉を愛してなどいないのだ。
「私に……訊くな」
一乃は逃げるように顔を逸らした。白倉の口調に、急に自分が教師であり、彼が生徒であるのだと思い出させられたように思えて、後悔と恥辱で脳が沸騰してしまいそうだ。
「では、仕方ありませんね。時間ももうあまりない」
白倉がすっと身体を折った。触れられる、と、びくりと一乃の肩が震える。だが彼は、一乃には触れずに、床に落としたままだった服を拾ってかけた。
「夏が近いとはいえ、風邪をひいてしまいます」
昨日一乃が叩き落としたのと同じ白いハンカチが、太腿についた汚辱を拭ってゆく。
布が擦れる感触が敏感な部分を刺激して、一乃は漏れそうな声を呑み込んだ。
「これで……もう、いいのか?」
呆然とした気持ちのまま、一乃は白倉を見上げた。
白倉は軽く首を傾げ、唇を美しい形に歪ませて頬を弛緩させる。
「気が済んだのか、と訊いている」
かけられた服を抱き寄せながら、一乃はどんな顔をしていいかわからなかった。
太腿を拭いきった白倉が、すっと手を引いて身体を起こす。
「済んだと言ったら、どうなります?」
白倉はそのまま自分の衣服を直し、ゆっくりした仕草で会長席へと戻ってゆく。
一乃は服を着ることもできずに、白倉の言葉を待った。
「先生は僕から強制されたという口実を欲しておいでだ」
「!」
寂しそうに言った白倉の表情は、一乃の心を見透かしたように目は細められ、両手は組まれて顎が乗る。
背後の大きな窓からの逆光が影をつくったその姿は、支配者のものだ。
と、一乃の意識を覚醒させるように、予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「では、また授業で。……藤篠先生」
満面の笑みで微笑んだ後、机の上の書類に目を落とした白倉が、再び一乃を見ることはもうなかった。
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